訪問看護は、一人で利用者さまのご自宅を訪問し、その場で判断する場面も多くあります。そのため、「急性期病棟や救急の経験がないと、訪問看護には挑戦できないのでは?」と思っている方もいるかもしれません。たしかに、訪問先で予期せぬことが起こった際には、臨機応変な対応力が求められます。しかし、人の生活や人生を支える訪問看護では、これまで歩んできた人生そのものが活かされます。 そして、それは必ずしも看護師としての経験に限りません。 仕事やライフイベント、趣味など、一見すると看護とは関係のない経験も、利用者さまとの関わりや支援に役立つことがあります。そこで今回は、看護師経験と人生経験の両面から、これまでの経験が訪問看護でどのように「武器」になるのかをご紹介します。 看護師経験編病院・クリニック訪問看護へキャリアチェンジする看護師さんのなかには、病院での勤務経験を持つ方が非常に多くいます。実際に、「病棟経験○年以上」と応募条件に掲げている訪問看護ステーションも少なくありません。 知識や技術はもちろん、多職種と連携しながら患者さまを支援してきた経験も、そのまま訪問看護に活かすことができます。 急性期病棟では、患者さまの小さな変化を捉え、状態に応じて迅速に対応する力やアセスメント力が磨かれます。こうした力は、看護師が一人で利用者さまのご自宅を訪問し、その場で状態を判断する訪問看護において欠かせません。慢性期病棟では、アセスメント力に加えて、病気と付き合いながら生活する方を長期的に支援する経験が身につきます。一人の利用者さまを長く支援していく訪問看護では、こうした経験が大きな力になります。 一方、クリニックでの経験も訪問看護に活かせます。限られた診療時間のなかで必要な情報を収集し、状況を判断して次の対応につなげる力は、訪問時間が限られている訪問看護でも役立ちます。また、医師との距離が近い環境で、必要な情報を簡潔に報告し、適切に指示を仰ぐ経験も、訪問看護における主治医との連携に活かされます。 施設・その他の現場訪問看護で活かせる看護師経験は、病院やクリニックだけではありません。高齢者施設やデイサービス、訪問入浴など、高齢者と関わる機会が多い現場での経験も、訪問看護では大きな力になります。特に高齢者施設は、「生活を支える」という意味では、訪問看護に一番近い部分があるかもしれません。日々の健康状態だけでなく、食事や排泄、生活リズムなど、その人がどのように毎日を過ごしているのかを見ながら支援する経験は、利用者さまの暮らしそのものを支える訪問看護でも活かせます。 また、高齢者に多い肺炎や皮膚トラブルなどの状態をみる力や、点滴、排便コントロールなどのケアに対応してきた経験は、在宅で療養する利用者さまへの支援にそのまま活かすことができます。さらに、デイサービスや訪問入浴などの経験も、実際に介護保険サービスを利用する現場を経験していることで、流れをイメージしやすく、ケアマネジャーとの連携や利用者さま、ご家族への説明にも役立つでしょう。 一方で、特定の領域で培った専門性も、訪問看護では立派な「武器」になります。透析透析を受けながら訪問看護を利用している方も多く、シャント管理や水分摂取量、体重管理など、透析の知識を活かせる場面が多くあります。手術室・健診センター医師との距離が近い環境で、限られた情報から状況を判断し、行動する力が身につきます。採血や点滴などの処置経験が豊富なことも強みになります。保育園ナース子どもとの関わりや発達に関する知識などが、小児訪問看護でも活かせます。イベントナース転倒やけが、熱中症など、さまざまな場面での緊急時対応の経験が、訪問看護での急な状態変化への対応に活かせます。人生経験編ライフイベント訪問看護では、これまでの子育てや介護などのライフイベントを通して身につけた経験や視点も、仕事に活かすことができます。 よく、「子育てでブランクがあるけれど、訪問看護に挑戦できるだろうか」と不安に感じている方がいますが、子育てのなかで培った力も、訪問看護では大きな強みになります。子どもから目を離せない時期でも、時間を見つけて家事をこなし、急な発熱など、いつもと違う変化にも気を配る。こうした日々の積み重ねから、状況を見ながら優先順位を判断する力や、複数のことを同時に進める力が身についている方が多いです。また、訪問看護は利用者さまのご自宅に入り、その人の生活に寄り添って支援する仕事です。家事や育児など、日々の暮らしを経験しているからこそ気づけることもあり、生活者としての視点は訪問看護で大いに役立ちます。さらに、家族の介護を経験した方も、その経験自体が貴重な力になります。実際に在宅で家族のケアにあたった経験があれば、限られた環境や資源のなかで介護を続ける大変さや、ご家族が抱える悩みをより身近に感じられるため、利用者さまだけでなく、家族支援においてもその力を発揮することができるでしょう。他業種・アルバイトなど もちろん、訪問看護で活かせるのは、医療や看護に関する経験だけではありません。看護師になる前の他業種やアルバイトなど、これまで経験してきた仕事で身につけた力も、訪問看護のさまざまな場面で役立ちます。 介護・福祉高齢者の生活を支える視点や、移乗・排泄介助などの介護技術は、訪問看護でもそのまま活かせます。実際に、介護職を経験してから看護師になる方もいます。接客・サービス業相手の年齢や性格、その場の状況に合わせて対応し、相手が何を求めているのかを考える力は、利用者さまやご家族との関係づくりや、一人ひとりに合わせた支援に活かせます。営業相手の話を聞き、ニーズを引き出す力や、信頼関係を築いていく力は、利用者さまの本当の思いをくみ取る場面で役立ちます。事務職書類の管理やスケジュール調整など、正確に物事を管理する力は、訪問スケジュールの調整や記録などに活かせます。特に訪問看護は書類が多く、事務処理も病棟より多いため、有利に働くでしょう。教育・保育相手の理解度や年齢に合わせて、わかりやすく伝える力は、利用者さまやご家族への説明や指導に活かすことができます。趣味やこれまでの人生経験「そんなことが訪問看護で役に立つの?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、訪問看護では、趣味やこれまでの人生経験全てが思いがけないところで役立つことがあります。 たとえば、近年よく耳にする「推し活」。実際に、「好きなキャラクターやアイドルが同じ」という共通点から利用者さまとの会話が広がり、関係づくりにつながったというケースがあります。 他にも、出身地が同じ、昔同じスポーツをしていたなど、いわゆる「共通の話題」があることは、利用者さまにとっても非常に嬉しいものです。何気ない会話をきっかけに距離が縮まり、「毎週来てくれる看護師さんとの会話が楽しみ」と訪問を心待ちにしてくださる方も多いです。 こうした関係づくりは、看護師として身につけた知識や技術だけでは補えません。皆さんがこれまで好きになったもの、経験してきたこと、歩んできた人生そのものが、利用者さまとのつながりをつくるきっかけになるのです。 まとめ訪問看護で、どんな経験が役に立つのかは、実際に現場に立ってみなければわかりません。「何が役に立つかわからない」のではなく、「どんな経験でも、誰かの支えになる可能性がある」。それが訪問看護という仕事の面白さであり、醍醐味でもあります。 アップルパイ訪問看護ステーション/わかちな訪問看護ステーションにも、さまざまな現場を経験してきたスタッフがいます。看護師としての経験だけでなく、それぞれが歩んできた人生や得意なことも違います。 だからこそ、一人では思いつかなかった視点も、みんなで知恵を出し合うことで新しい支援につながることがあります。お互いの経験を持ち寄り、毎日切磋琢磨しながら、利用者さまによりよい看護を届けています。これまで積み重ねてきた経験は、決して無駄にはなりません。あなたが「普通」だと思っている経験も、訪問看護では誰かを支える大切な「武器」になるかもしれません。